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秋の夜長を読書で楽しみませんか?

=「知の宝庫」国立国会図書館を探訪=

2019年10月25日

社会・生活

HeadLine副編集長
竹内 典子

 1階から乗ったエレベーターがひたすら下に降りていく。階数表示が地下8階で止まり、ドアが開いた瞬間、ひんやりした空気と紙とインクの匂いに包まれた。ここは東京・永田町の国会議事堂と道を挟んで隣り合う「国立国会図書館」の新館。筆者は毎月第2、第4木曜に先着5人を対象に開かれる利用ガイダンスに参加した。最近近所の図書館に足を運ぶこともあって、蔵書数国内最大の図書館がどんなところなのか興味があって応募したのだ。

 図書館の利用の仕方などをひと通り教えてもらった後、案内されたのは地下約30メートルの空間だった。その先に広がっていたのは、新聞の保管庫。最初は"秘密基地"みたいな暗くて重い雰囲気を想像していたが、エレベーターホール前には地上の天窓から秋の陽光が差し込んでいた。これが「光庭(ひかりにわ)」と呼ばれる吹き抜けである。見上げると、雲の切れ間から日光が差し込んでおり、その安心感が地下で一日中働く職員の精神衛生にも一役買っているようだ。そしてホール両側の広々とした部屋には、見渡す限り書架が並んでいる。

 書庫は新館の地下1~8階を占めており、新聞以外にも雑誌や書物などが分類管理されているという。地下に設けているのは、温度や湿度管理がしやすく、ランニングコストが抑えられるため。常時温度22度、湿度55%に保たれているそうだ。「特に地下8階は他のフロアに比べてインクの匂いが強いですね」とサービス運営課の担当者。1882年発行の熊本新聞を書架から丁寧に取り出す。所々に虫食いの跡が残っていたが、その部分は薄い和紙で補修がなされている。館内には資料の補修作業の専門チームがあり、持ち込まれた資料を一つひとつ根気よく修復しているそうだ。

20191025_01.jpg国立国会図書館新館の「光庭」(左)と書庫(右)
(提供)国立国会図書館ウェブサイト

 国立国会図書館が永田町に開館したのは、1948年のこと。現在は東京のほか、関西館(京都・精華町)、国際子ども図書館(東京・上野)の3つの施設で構成されている。国立国会図書館法によって国内で発行されたすべての出版物は国立国会図書館への納本が義務付けられており、図書や新聞、雑誌などの蔵書数約4342万点は国内最大を誇り、知らざれる「知の宝庫」である。

20191025_02.jpg蔵書を検索するパソコン
(提供)国立国会図書館ウェブサイト

 もっと知られていないのが、調査機関としての機能だ。国会に属する機関として、①国会の調査研究などをサポートすること②多様な資料や情報を集めて文化的財産として後世に残すこと③その情報を提供すること―などが主な役割である。実際、国会議員からの調査依頼は年間3万~4万件にも上り、国会にとっては縁の下の力持ちなのだ。

 国立国会図書館を利用するためには、「登録利用者カード」が必要となる。新館の受付に、申込書と身分証明書を提出すると15分程度でカードが発行。続いて、ロッカールームに大きな荷物を預ける。図書館にはB5サイズ以上の封筒やカバン、カメラ、傘などは持ち込めない。透明なビニール袋が用意されていて、その中に必要なものを入れて持ち歩く。建物は本館と新館がつながり、蔵書を検索するパソコン端末や閲覧コーナーのほか、地図室、新聞資料室などの専門室があり、想像以上に巨大で迷いそうになる。

 普通の図書館の「開架式」との大きな違いは、利用者は本や資料を保管する書庫には入れない「閉架式」であること。読みたい本は、利用者が館内のパソコンの「国立国会図書館オンライン」から検索して申し込みをすると、10~30分程度で引き渡しカウンターに届く。今回のガイダンスでは実際に「茶道」に関するキーワードを入力して資料の検索方法手順の説明を受けた。また、本や資料は個人に貸し出しは行っていないため、館内で閲覧するか、複写サービスを利用することになる。資料を汚したり破損させたりしないよう、コピーは申し込みを受けた職員が対応する。正直、面倒だと感じなくもないが、これも大切な文化的資産を何百年も守るためと聴き、納得した。

 近年、国立国会図書館は本や資料の利用と保存の両立を図ることを目的に、所蔵資料のデジタル化も積極的に進めている。デジタル化した資料は、ウェブサイト内の「国立国会図書館デジタルコレクション」で検索や閲覧ができる。1968年までに国立国会図書館が受け入れた戦前、戦後の図書や江戸時代以前の和書などの古典籍資料を中心に総数約350万点が収録されている。そのうち、著作権など権利状況に問題が無いことが確認できた約35万点の図書および古典籍の約7万点などは、インターネットで公開されていて個人のパソコンやスマートフォンで読むことができる。

 ガイダンスから帰り、早速、自宅のパソコンからデジタルコレクションの中にある「源氏物語」を検索してみた。言わずと知れた平安時代中期の歌人、紫式部が約1000年前に著した長編小説だ。すると江戸時代の写本が現れ、第1巻「桐壺」を開くと「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける...」で始まる有名な一節が画面に広がった。文字だけでなく、表紙裏には金箔や銀箔を散らし、本文の紙にも亀甲や市松模様などが施されるなど、「歴史」をずっしりと感じる作りが見てとれた。それにしても、歴史的な書物をクリック数回で目にできるとは、デジタル革命の恩恵を肌で感じる。

 源氏物語といえば、鎌倉時代に活躍した歌人、藤原定家が書き写した第5巻「若紫(わかむらさき)」の巻が先に見つかったというニュースが流れたばかり。最古の写本とされるうちの一巻で、ますます1000年前の芸術作品が身近な存在になった。

 そういえば、桐壺の中に「鈴虫の声の限りを尽くしても 長き夜あかず涙かな」という歌が出てくる。「あの鈴虫のように声の限りを尽くして泣いても、秋の夜長も足りないほどずっと涙がこぼれます」という内容だという。これは悲しみに沈む歌であるが、秋の夜長は昔から文学の題材になってきた。

 秋が深まる中、今年の読書週間(10月27日~11月9日)は古典に親しんでみよう。国立国会図書館がそんな意欲をかき立ててくれた。

20191025_03.JPG国立国会図書館の入口
(写真)筆者 RICOH GRⅢ

竹内 典子

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